シドニー

イメージ 1

[エッセイ 183](新作)
シドニー
 
 シドニーで開かれていたAPECアジア太平洋経済協力会議)首脳会議が閉幕した。参加した21カ国・地域の首脳たちは、お揃いの外套のような民族衣装をまとい、シドニー・オペラ・ハウスをバックに記念撮影をしていた。

 オペラ・ハウスといえば、シドニー・ハーバー・ブリッジとともにシドニーを代表する観光名所である。貝殻が重なり合ったような独創的な外観が評価されてか、今年6月末に世界文化遺産に登録されたばかりである。1973年の完成、作られた年代の一番新しい世界遺産だそうだ。
 
 かの地を訪れたのは、シドニーオリンピックの始まる数カ月前であった。滞在初日は、このオペラ・ハウスからハーバー・ブリッジの袂まで、シドニー湾周辺の古い街並みを歩き回った。
 
 足はおのずと市の中心部へと向かった。超高層ビルの林立する、風格のある美しい街並みが続く。目の前にシドニー・タワーが現れた。たいした期待もないままその展望台に上った。眼下に、複雑に入り組んだ入江が幾重にも重なって見える。本当に海だろうか。期待の数十倍、数百倍の絶景であった。
 
 夕食は、自分の足で見つけたレストランでとりたいと、少々早めにホテルを出た。料理は、名物のオージービーフかロブスターがいい。中心部のわが拠点から、おおむね西の方角に向かって歩いた。しかし、歩いても歩いても、レストランらしいものは見つからなかった。
 
 小一時間も徘徊しただろうか、目の前に細長い入江が現れた。対岸には、たくさんのネオンが並んでいる。左前方には、高架のモノレールの駅も見える。とにかくあの電車で湾の向こう側まで行ってみよう。
 
 そこは、ダーリング・ハーバーに面したレストラン街であった。今度は店数も、メニューの種類も多すぎて迷いに迷った。やっとシーフードレストランに腰を落ち着けたとき、時計は8時をかなりまわっていた。腹が減りすぎていたせいか、せっかくのロブスターは期待ほどでもなかった。

 翌日は、コアラやカンガルーを見るため、市街地の対岸にあるタロンガ・ズーという動物園まで行くことにした。もちろん、ハーバー・ブリッジを渡る陸路もあるが、私たちは船で行ってみることにした。動物園では、有袋類の動物たちと楽しいひとときを過ごせたことはいうまでもない。そして、高台に位置するその場所からの、海越しに眺めるシドニーの町もまた絶景であった。

 こうして、毎日のように海を肴に、シドニーの魅力をたんのうすることができた。オペラ・ハウスもまた、海に加えハーバー・ブリッジという美しい脇役があってこその世界遺産であろう。シドニーは、美しい海をおいては語れない。
(2007年9月11日)