土用丑の日

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[エッセイ 178](新作)
土用丑の日
 
 「土用丑の日には、ウナギを食べて夏ばてを防ごう」。数百年にもわたって、これほどヒットしたキャッチコピーはほかにない。これを、ウナギ屋の夏枯れ対策として考え出したのは、大田蜀山人とも平賀源内ともいわれている。
 
 土用とは、中国の五行思想にもとづく季節の分類方法の一つである。春、夏、秋、冬、各季節の最後の18日間または19日間を土用と呼ぶ。一般には、夏の土用、すなわち立秋直前のその期間をそう呼ぶことが多い。今年は、7月20日から8月7日までの19日間がそれにあたる。

 丑の日は十二支の2番目の日である。夏の土用の期間中にくる丑の日を、通常「土用丑の日」と呼んでいる。土用の期間中に丑の日が2回くる年がある。この場合は後者を二の丑と呼ぶ。今年は7月30日の1回だけである。

 その土用の丑の日に欠かせないのがウナギである。ウナギは普段近くの川や湖に棲んでいるが、まだ知られていないことも多い。産卵場所が、グァム沖のスルガ海山付近であることが確認されたのもわずか1年前のことである。


 孵化した稚魚は、シラスとなり日本の沿岸にやってくる。川や湖に入った彼らは、5年から10数年で成魚になる。ウナギの養殖とは、このシラスを捕獲して育てることをいう。孵化からシラスになるまでの過程はほとんど解明されておらず、したがってその間の養殖技術も確立されていない。

 ウナギの血液にはイクシオトキシンという毒があるので、調理方法もおのずから制約を受ける。しかし、熱を加えるとその毒性は消える。このため、加熱するかあるいは血液を完全に抜いて酢でしめるのが基本的なやり方となる。

 ウナギは、いまでこそ開くのがあたりまえになっているが、昔は筒状にぶつ切りにしていたようだ。その切り身に、縦に串を刺して焼いた。焼きあがった形や色が蒲の穂に似ていたことから蒲焼といわれるようになった。

 関東では、背開きにして蒸して焼くのが一般的である。よく、関東は武士の社会だから腹を割かず背を開くのだといわれる。本当は、蒸すと身が柔らかくなり、腹開きでは背中側がすぐ二つに分かれてしまうためのようである。

 関西では、ウナギのことをマムシと呼ぶ。鰻飯(まんめし)、あるいは飯むし(ままむし)が訛ったものではないかといわれている。関西では、直火で焼いたウナギを飯(まま)と飯(まま)の間に挟んで蒸すそうだから「ままむし」が語源かもしれない。

 ウナギは本来冬が旬である。しかし、たとえ夏痩せのウナギでも、猛暑を乗り切るには格好のスタミナ源である。ウのつくものならなんでも夏ばてにきくというが、今年も例のキャッチコピーに乗せられてみるか。
(2007年7月30日)