オルセー美術館展

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[エッセイ 163](新作)
オルセー美術館
 
 人に、なんと強い印象を与える絵だろう。黒ずくめの、若い女性の肖像画である。顔は、気品に満ちた理知的な女子大生にみえる。帽子は黒、リボンや衣服も黒でまとめられている。わずかに、襟元にのぞく白とスミレのかわいいブーケがいろどりを添えている。

 このモデル、印象派の女流画家である。このときすでに30歳になっていた。「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」、これがその絵の名前であり、女性の名前である。描いたのは、彼女の師匠であるエドゥアール・マネである。

 今回展示されている作品の中には、彼女に関わる印象的な名画があと2点ある。彼女自身の手になる「ゆりかご」とピエール=オーキュスト・ルノアールの名作「ジュリー・マネ(あるいは猫を抱く子供)」である。「ゆりかご」の女性は彼女の姉、エドスであり、「ジュリー・マネ」は彼女の一人娘である。

 先日、私が足を運んだそのオルセー美術館展は、1月末から4月上旬まで、上野の東京都美術館で開催されている。パリのオルセー美術館に収蔵されているフランス印象派の作品を中心に140点が公開されている。マネ、モネ、ルノワールセザンヌゴッホ、そしてゴーガン。19世紀に活躍した印象派とその同時代を生きた芸術家たちの、創造の軌跡をたずねる展覧会だそうだ。

 以前、パリを旅したとき、オルセー美術館に立ち寄ったことがある。近世の絵画を鑑賞したいなら、ぜひその美術館に行きなさいとすすめられてのことである。パリ3日目、朝食もそこそこにその美術館に向かった。元はオルセーという鉄道の駅だったという重厚な建物を前に、期待はいっそう膨らんでいった。

 ところが、開館時間を過ぎているはずなのに入口は閉まったままである。来場者らしき人たちも次々とやってくるが、いずれも両手を広げ、肩をすぼめて帰っていく。フランス語は読めなかったが、どうやら定休日であったようだ。

 しばらく、そばを流れるセーヌ川を眺めていたが、仕方ないので対岸のルーヴル美術館を訪ねることにした。もちろん、しかたないといっては罰の当たるあの有名な美術館である。さいわい、「いずれは・・」と思っていたミロのヴィーナスやモナ・リザに対面できたので、それはそれでラッキーであった。

 そして、十数年ぶりにオルセー美術館と再会することができた。例の、「すみれの・・」の絵は、あの時のモナリザに優るとも劣らない輝きを放っていた。平日というのに、絵の前は人の流れに身を任せざるをえないほどの混みぐあいであった。それでも、日本人の好きなルノアールゴッホは、しばし時の経つのを忘れさせてくれた。

 それにしても、モネの睡蓮が一枚もなかったのにはいささかがっかりである。
(2007年3月19日)