チョコレート

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[エッセイ 159](新作)
チョコレート
 
 バレンタインデーが近づくにつれ、デパートやスーパーのチョコレート特設コーナーはいっそうの賑わいを見せはじめた。品揃えはもとより、飾りつけもますます華やかになってきている。
 
 バレンタインデーの関連だけで、チョコレートの売上は莫大な額に上るのではなかろうか。そこで、日本チョコレート・ココア協会の統計を覗いてみたら、これに関わる全国の小売高は2005年で約530億円とあった。チョコレートの年間小売高が約4,400億円なので、それの12パーセントに相当する。

 この数字を見るかぎり、その割合は意外と低く、チョコレートは想像以上に普段の生活に溶け込んでいるということがいえる。これは、嗜好品として購入されるほか、健康食品としても注目されているためではなかろうか。

 たしかに、チョコレートには赤ワインをはるかにしのぐ多量のポリフェノールが含まれている。ポリフェノールには、癌や動脈硬化などの原因といわれている活性酸素の働きをおさえる効果があるという。
 
 チョコレートの原料となるカカオは、中央アメリカではもう4千年も前から栽培されている。彼等は、それを粉にしてお湯や水に溶かして飲んでいた。当時から、薬用や強壮にも珍重されていたという。
 
 16世紀になって、この地域がスペインの植民地になると、カカオは宣教師の手によって本国に紹介された。その飲み物は、スペインの王室を頂点に庶民の間へと広まっていった。後にアンヌ王女がフランスのルイ13世のもとに嫁いだとき、これも一緒に伝えられたという。
 
 カカオの粉末をお湯に溶かして飲む「ココア」という飲み物は、フランスの王室を中継点にヨーロッパ中に広まっていく。やがて、イギリスで粉末を固形化することに成功する。スイスでは、それがいっそう口当たりのいいミルク入りのものへと改良された。こうして、19世紀の半ばから後半にかけて、「チョコレート」というカカオが固形化されたお菓子が誕生した。

 日本には、もちろん戦前からあったが、本格的な普及はアメリカの進駐軍がもたらした。その頃の子供が最初に覚えた英語のフレーズは、「ギブ・ミー・チョコレート」であったといっても過言ではあるまい。

 近年、バレンタインデーむけのコーナーには、手作り用の材料や器具類が数多く並べられるようになった。便乗商法にはいささかうんざりであるが、手作りというオリジナリティ尊重の流れにはエールを送りたい。

 それにしても、この一番の商機に一人蚊帳の外に置かれている不二家が気の毒でならない。
(2007年2月10日)