干支

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[エッセイ 158](新作)
干支
 
 今年は亥年、十二支の最後の年である。もっとも、そんな意識はお正月の前後に限られ、あとはすっかり忘れてしまっている。ところが、生まれた年の話になると、十二支の動物を持ち出して急に盛り上がるから不思議である。
 
 太古の昔、中国では1年を月の満ち欠けによって12通りに分け、それぞれに符号をつけて呼び分けていた。それが、子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う)、辰(たつ)、巳(み)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(とり)、戌(いぬ)、亥(い)の十二支(じゅうにし)である。これらの呼び名には、さらに覚えやすくするために動物の名前が当てられた。

 ところで、この時代にはまだ数字は存在していなかった。そこで、十二支とは別に10個の符号を作った。それが、甲(きのえ)、乙(きのと)、丙(ひのえ)、丁(ひのと)、戊(つちのえ)、己(つちのと)、庚(かのえ)、辛(かのと)、壬(みづのえ)、癸(みづのと)の十干(じゅっかん)といわれるものである。こちらは、中国の王様が、自分の10人の妻を呼び分けるための符号だったそうだ。

 こうして、2種類の序数が誕生した。十干の10と十二支の12の最小公倍数は60になることから、それだけ多くの序数を手にしたことになる。まず十干の文字を上側に順番に並べ、下側に十二支の文字を一つずつ順に当てていく。

 最初が「甲子(きのえね)」となり、2番目は「乙丑(きのとうし)」、最後の60番目には両方の末尾が来て「癸亥(みづのとい)」となる。これらの序数は、年、月、日の序数としていまでも生きつづけている。さらに十二支は、単独で時刻や方角の符号としても永く使われてきた。

 この60個からなる序数を「十干十二支(じゅっかんじゅうにし)」といい、略して「干支(えとorかんし)」という。したがって、十二支だけを指して、あるいはその動物のことを「えと」というのは厳密にいうと誤りである。
 
 ところで、十二支の動物の話であるが、いろいろないい伝えを集めて要約すると次のようになる。あるとき、十二支の動物は神様の家の前に着いた順番によって決めるということになった。牛は動きが遅いので真っ先に出かけ、予定どおり一番に門の前に着いた。ところが、神様が門を開けようとした瞬間、牛の角の後ろに隠れていた鼠が飛び出し一着を横取りしてしまった。

 猫もその気でいたが、集合の日を忘れたので鼠に聞いたところ、嘘の日を教えられて参加できなかった。後日、猫は神様に訴え出たが顔を洗って出直してこいと追い返されてしまった。このため、猫はひまさえあれば顔を洗い、鼠さえ見かければ追い掛け回すようになったという。

 鼠に騙されるマイナーな猫よりも、猛進を侮られる干支メジャーの猪の方がまだマシということだろうか。
(2007年1月29日)

写真は、寒川神社の正門に飾られたえとねぶた。中央が猪。