ニューイヤーコンサート

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[エッセイ 156](新作)
ニューイヤーコンサート
 
 もし、豊臣秀吉がヨーロッパに遠征して、芝居小屋を作ったとしたらこんな風になるのかもしれない。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の、ニューイヤーコンサートが行われるウィーン楽友協会大ホールはそんな雰囲気である。

 その、世界で最も人気の高いコンサートは、今年も元旦に世界中に衛星中継された。日本はちょうど夜のゴールデンタイムにあたるが、私は帰省中の雑事にまぎれ不覚にも見逃してしまった。さいわい、その次の土曜日に再放送されたので、午後の2時間半じっくりと聴くことができた。
 
 指揮は、このコンサート4度目になるというズービン・メータであった。曲目は、ワルツやポルカそれに行進曲が全部で18曲用意されていた。「美しく青きドナウ」などおなじみの曲もたくさんあったが、題名さえ聞いたこともないものもいくつか含まれていた。
 
 舞台周辺は、イタリアから取り寄せたというピンクの花に囲まれていた。2044名収容といわれる満員の客席は、正装した男女で埋め尽くされていた。昨年は和服姿の女性が目についたが、今年はなぜか一人も見当たらなかった。

 奏でられるワルツやポルカは、新春の華やいだ雰囲気をいやがうえにも盛り上げた。その一方、終盤に挿入された「エルンストンの思い出」という曲は、コミカルなタッチで会場の雰囲気を和らげていた。そして、アンコールの最後に用意されていたのは「ラデツキー行進曲」であった。指揮者は、聴衆の手拍子を巧みに誘導し、ホール全体を陶酔の渦へと引き込んでいった。
 
 世界一有名なこのコンサートは、1939年にスタートした。最初は12月31日であったがまもなく元旦に変わった。1955年からは、テレビで世界中に中継されるようになった。入場券はなかなか手に入らず、買えても何十万円もするという。観客はすべて正装、日本人が多いのでも有名である。

 演奏はもちろん、150年の伝統をもつウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。指揮者は、楽団員の投票によって選ばれることになっているそうだが定かではない。かのカラヤンは1987年に、わが小沢征爾氏は2002年に、それぞれ1回ずつタクトを振っている。曲目は、ヨハンシュトラウス一家の作曲したワルツやポルカあるいは行進曲が中心である。

 会場は、世界一豪華といわれるウィーン樂友協会大ホールである。内装には、全面に黄金の金箔が張られていることから「黄金のホール」といわれている。120年も前に建てられたが、当時も今も音響は世界一だそうだ。

 休憩時間になると、観客はもとより楽団員までがワイングラスをかたむけ新春を祝うという。われらも、一度でいいからそこでお屠蘇を味わいたいものだ。
(2007年1月13日)