鬼の洗濯板

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[エッセイ 151](新作)
鬼の洗濯板

 もうすぐ、プロゴルフの国際大会「ダンロップフェニックストーナメント」が始まる。今大会には、すでにタイガーウッズの参加が決まっており、彼の3連覇がなるかどうかが最大の注目点だそうだ。

 このトーナメントは、1974年の第1回大会以来、宮崎のフェニックスカントリークラブが舞台となってきた。このゴルフ場は、毎年世界のトップ100に選ばれるほどの名コースである。私も数十年前、“仕事”でこのコースに来たことがあるが、その風格と密集した松林に翻弄され大変苦い思いをした経験がある。

 宮崎といえば、1960年、島津久永氏と貴子さまのご夫妻が新婚旅行でこの地を訪問された。ご夫妻が回られた青島、霧島、桜島のルートはにわかに脚光を浴び、「三島ルート」としてもてはやされることになった。その2年後の1962年には、新婚間もない現在の天皇ご夫妻もこの地を訪問された。日南は「プリンセスライン」としてさらに注目を集めることとなった。

 こうして、日南地方は新婚旅行のメッカといわれ、空前の観光ブームに沸いた。その日南を名実ともに支えてきたのが、「鬼の洗濯板」といわれる波状岩である。日南海岸の、あの独特の景観を形成し、観光の拠点である青島を造りあげた基盤である。日南海岸の中心、約8キロにわたって広がっている。

 私も、この素晴らしい景色をたんのうするため、先日日南を訪れた。青島から海岸を隔てて望むフェニックスホテルは、45階建てのシェラトングランデオーシャンリゾートへと華麗に変身していた。巨人軍がキャンプを張る宮崎県総合運動公園周辺はさらにきれいに整備されていた。

 南下して堀切峠にいたれば、鬼の洗濯板の眺望がいっそう鮮やかに目に飛び込んでくる。鵜戸神宮では、境内下の岩場にある亀石の窪みに運玉を投げ、うまく入れば運が開けるという占いもしっかりと受け継がれていた。

 しかしこの地方では、以前ホテルであったと思われる巨大な建造物が、雨ざらしのまま醜い姿を晒している。レストランやみやげ物店であったと思われる建物が、シャッターを閉められ荒れたまま放置されてもいた。起死回生をねらったシーガイアも、結局外資のお世話になる羽目になってしまった。

 新婚旅行を海外に奪われ、巨人軍が不振にあえいでいるといっても、このまま手をこまねいては悪循環を加速させるだけである。日南には鬼の洗濯板というしっかりとした基盤があり、神話という得がたいソフトも眠っている。そしてなにより、日南には温暖な気候と独自の生活文化があるはずである。

 捨てるべきものは思い切って整理し、文化面に比重をかけた体験型の観光に再構築すべきではなかろうか。お客さんは世界中にいるはずである。
(2006年11月14日)

写真は、堀切峠からの鬼の洗濯板の眺め