高野槇

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[エッセイ 146](新作)
高野槇

 今日は、駅前のスーパーに目玉商品の安いのがあるというので、散歩がてら夫婦でそちらに出かけてみることにした。途中、農家の庭先で、直売品の陳列作業をしているところに出くわした。見ると、大根の摘み菜が山積みされていた。あまりにも新鮮なので、3束ばかり買ってくることにした。

 「おや、ここにそびえているのは、いま話題のおめでたい木ではないですか!」「そうなのです。もう20年以上も前に、遊行寺の植木市で買ってきた高野槇という木なのですよ」「いままで、毎日のように前を通っているのにちっとも気がつかなかった。いまに、観光バスがやってきますよ」。

 思い起こしてみると、この縦長の円錐形をした高木はお寺や広い公園などでよく見かけた。現に、野菜を買ったすぐ隣の農家でも、桧の大木などと並んでその雄姿を垣間見ることができた。

 親王様がご誕生されて1週間、にわかに脚光を浴びたのがこの高野槇である。高野山金剛峯寺では、南海電鉄の協力をえて難波駅でその苗木1500本を乗客に配ったという。普通の人に、この木のことを知ってもらいたいためだそうだ。

 この木は、コウヤマキコウヤマキ属という他に親類のいない一科一属の植物である。本州中部から九州にかけての山地に広く分布しているが、世界では日本にしかない固有の種である。20年以上かけて、直径は1メートル、高さは30~40メートルにも成長する。和歌山県、それも高野地方にたくさん自生しているのでその名前がついたという。

 高野槇は、ヒマラヤシーダー、南洋杉とともに世界三大公園美樹といわれている。松の葉をふっくらと柔らかくしたような細長い葉っぱ、天を突く美しい立ち姿はまさに美樹という形容にふさわしい。もちろん、親王様の赤坂御用地内にも立派な大木があるそうだ。

 この木は、観賞用の植木として立派なだけでなく、材木としてもきわめて優秀な素材である。木目は美しく、とくに耐水性、耐湿性に優れているという。このため、船はもとより浴槽などの素材としても重用されているそうだ。そういえば、その浴槽を売り物にした温泉旅館の話を聞いたことがある。

 これだけの高級な樹木、国民の関心の高まっているいま、杉に代えて全国に植林してはどうだろう。幼木の時は雑草に負け、公害にも弱く生育が遅いなど、林業としての課題は多いようだ。しかし、安い輸入材との対決を避け、高級分野に道を開くのも林業活性化の有力な方策ではなかろうか。

 なによりも、いまや国民病となったスギ花粉症患者から、熱烈に支持されること請け合いである。
(2006年9月17日)

※写真、上はその農家の高野槇
     下はその木の葉っぱ