重陽の節句

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[エッセイ 145](新作)
重陽節句

 もう四半世紀もむかしの話になるが、現在の土地に引っ越してきたとき、電話番号も新しいものに変わった。電話局から告げられた新番号は9442であった。これでは、「苦しい・死に」ではないですかと抗議し、かろうじて最後の桁だけ別の数字に変えてもらった。

 数字の9や4は、日本では「苦」や「死」に通じるとして敬遠されることが多い。現にパチンコ店などでは、台の番号からこの2つの数字を外すのが通例となっているようだ。

 ところが中国では、9は最高に縁起のよい数字と考えられている。もともと、奇数は陽でありおめでたいとされているが、その中でも一番大きい9がもっとも縁起がよいそうだ。9は一桁数の終わりにあたることから、無限や再生を意味し、長寿若返りに通じるとも考えられている。

 こうして、究極の吉数が重なった9月9日が、1年で一番縁起のよい日ということになった。この日は、陽が極まって重なっていることから重陽(ちょうよう)の日と呼ばれ、季節の花である菊と結びついて菊の節句としてお祝いされるようになった。この節句の大儀は敬老であり、その願いは不老長寿である。

 中国では、この日は故事に倣い、グミの実を入れた袋を持って家族や友人と小高い丘に登ったという。そこで、菊の香りをうつした酒を酌み交わし、邪気を払って長命を願った。この風習が日本に伝わり、平安の初期から宮中の行事となった。江戸時代には、武家の祝日としてお祝いされるようになったという。

 このように、奇数が重なったおめでたい日は1年に5回あり、それぞれ節句としてお祝いされている。なじみ深いのは、3月、5月、それに7月である。3月3日は上巳(じょうし)、女の子の健やかな成長を願う桃の節句である。5月5日は端午(たんご)、男の子がのびのびと育つことを願う菖蒲の節句である。そして7月7日は七夕(しちせき)、技巧の向上を願う星祭りである。

 あとの1と9にまつわる日であるが、1月1日はあまりにも特別な日なので、人を占う最初の日にあたる7日を代わりにあてたという。この1月7日は人日(じんじつ)、家族の無病息災を願う七草の節句とされている。

 肝心な9月9日は、長崎や唐津の「くんち」に名残を残すだけですっかり廃れてしまった。太陽暦に代わった今日、その季節感に大きなずれが出てきたためでもあろう。さては、長寿など無用とばかりに姥捨ての日にされたかと心配したが、敬老の日(9月第3月曜日)へと衣替えされしっかりと根付いている。

 親王様のご誕生を喜んでいる一人であるが、「あやかり組の子供達は9月6日生まれだけにクローするぞ」と口走り、不謹慎だと家内にたしなめられてしまった。
(2006年9月12日)