カブトムシ

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[エッセイ 144](新作)
カブトムシ

 長い夏休みもとうとう終わってしまった。休みの間、子供達を楽しませてくれたカブトムシたちも、最期のときを迎えようとしている。

 カブトムシといえば、長男が小学生のころ、1年近くにわたって彼らの面倒をみたことがある。2学期が始まってまもなく、その長男がカブトムシの卵を10個ばかりもらってきた。

 邪魔になっていた金魚の水槽をひっぱりだし、それに腐葉土を入れて卵を埋めてやった。卵は、やがて芋虫のような幼虫に生まれ変わった。腐葉土は彼らのゆりかごであり、大切な餌でもあった。私たちは、毎週のようにそれを取り替えてやった。

 冬が行き、春も過ぎようとしていたある日、私たちはさなぎに変身した彼らを発見した。そのさなぎが羽化したのは、それから4~5週間も過ぎた梅雨入りも間近なころであった。半信半疑だったあの10個の卵は、あの小さな芋虫は、間違いなく本当のカブトムシだった。

 しかし、彼らは期待に反してあまりにも小さかった。育て方を間違えたのか、腐葉土がお粗末だったのか。やっと家族の一員となったビートルズは、繁殖期を迎える前にその一生を終えた。

 それにしてもこのカブトムシたち、中世の騎士を連想させる凛々しいいでたちである。贅肉一つない美しい容姿もまた魅力的である。前に突き出た立派な角は、メスを奪い合うためにオスだけに与えられた強力な武器である。日本の在来種は上下に2本、外国には3本や5本も持っているものもいる。

 カブトムシはコガネムシの仲間だそうだが、全世界で1500種前後いるという。彼らの成虫は、夏の間約1カ月間、子孫を残すための活動に精を出す。地上に出た後の餌は、クヌギやコナラあるいはクリの木の樹液が中心である。彼らが夜間の活動を好むのは、夜の方が樹液の出がいいためである。交尾を終えた彼らは、腐葉土と土の間に20~50個の卵を産み付け短い生涯を終える。

 孵化まで10~15日間、幼虫で9~10カ月間、そしてさなぎで1カ月半、あわせて11カ月前後を地中で過ごす。彼らは、その生涯の大半を腐葉土を土に戻すリサイクル事業に捧げていることになる。地上の生活はわずか1カ月間にすぎないが、これは彼らに与えられたささやかなご褒美といえよう。

 カブトムシは、蝉と同じような生涯を送る。カブトムシは地中11カ月、地上1カ月、蝉は地中4~5年、地上2週間と蝉の方が寿命は長いが下積みも圧倒的に長い。カブトムシは重装備であるが、蝉には武器らしいものはなにもない。

 来世、私たちはどちらのタイプに振り分けられるのだろう。
(2006年9月1日)