マダケ(真竹)の竹の子

[エッセイ 685]

マダケ(真竹)の竹の子

 

 近所の知り合いからマダケ(真竹)の竹の子をいただいた。「足元に生えていたものを無造作に採ってきたので、あまり出来は良くないよ」などといって手渡されたものだ。先祖伝来の山林の一角に生えていたのだそうだ。なるほど、タケノコとはいっても、細長くて、お店で見かけるモウソウチク(孟宗竹)のそれとはまったく違う貧相な代物だった。こんなものが食べられるのだろうか。

 

 とにかく、自宅に持ち帰り家内に見せた。「調理しだいでは食べられるのではないの」といって、結構前向きな態度を見せてくれた。それならと、こちらもネットで調理のしかたなどを検索してみることにした。家内も、あれこれ知恵を絞っていたが、とにかく夕飯に間に合わせてみるといって調理にかかった。

 

 竹は子供のころから接していたはずなのに、この真竹についてまったく知らなかった。身の回りにある竹は、孟宗竹と笹竹くらい、竹の子として食べるのは孟宗竹だけと思い込んでいた。こんな竹があるとは、しかも「真竹」と呼ばれて、日本の原産らしいことなどうかつにもまったく知らなかった。

 

 この真竹の生えている面積は、かつては全国の竹の70%くらいを占めていた。ところが、1960年代に全国一斉に枯死し、50%くらいまで落ちたそうだ。竹は数十年に一度花を咲かせ、それを機にその薮全体が枯死するといわれている。ただ、この現象は孟宗竹のことで、それも全国一斉ではないようだ。真竹が全国一斉だったのは、それらが遺伝的にきわめて近い関係にあったためのようだ。

 

 真竹は、根元は細いのに長さは結構あるので、先端に向かって細くなる率は小さい。しかも先端までまっすぐ伸びている。さらには、伸縮率が小さく、温度や湿度による変化も少ない。しかも、強靭でありながら肉厚が薄く加工しやすいため、古来よりいろいろな物に利用されてきた。弓、梯子、籠、物干し、日用品、細工物、工芸品、物差し、そして土木工事用材にまで広く重用されてきた。

 

 この真竹は、日本が原産と推測され、本州以南に広く分布している。別名をニガタケ(苦竹)と呼ばれるくらいその竹の子にはえぐみがあって、あまり食用には向かないようだ。それでも、ネットには、煮物、炊き込みご飯、メンマなど多種多様なレシピが百花繚乱のごとく掲載されていた。

 

 その日の夕飯は、鶏肉を混ぜた竹の子ご飯と生揚げを添えた煮物だった。意外や意外、結構おいしくいただけた。ただ、竹の子の先っぽの部分は繊維がいっぱいで、歯に挟まって往生した。さらには、根元に近い部分は成長が進んで固くなっており、まさに竹を食べているに近い感触だった。それでも結構満足することができた。今回の出来事は、真竹の存在とその特性を知るにいい機会となった。

 

 また機会があれば、さらに新たなレシピに挑戦してみたい。

                      (2024年6月14日 藤原吉弘)