ウイルス

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[エッセイ 556]
ウイルス

 

 ウイルスには、抗生物質はまったく効かないという。そうかなあと、残念には思いながらも、なぜそうなのかまでは考えていなかった。だいたい、ウイルスそのものを小型のスーパー細菌くらいにしか考えていないのだから無理もない話である。今更ながら恥ずかしい話だが、その程度のことしか知らないのは自分だけではないかもしれない。そこで、遅ればせながらあれこれ調べてみた。ついでに、細菌やばい菌そしてバクテリア、さらにはカビについても調べてみた。


 手元にある国語辞典によると、ウイルスとは、「光学的顕微鏡では見えないほど小さい病原微生体のことで、インフルエンザ、天然痘狂犬病脳炎、はしかなどの病原体」とあった。細菌とは、「ばいきんの一種。バクテリア」と。ばい菌とは、「微小な下等植物。細菌。かび」と。さらにバクテリアとは、「細菌類のこと。もっとも微細な単細胞植物で、酢酸菌、乳酸菌、納豆菌など有益なものとチフス菌、コレラ菌など有害な病原菌とがある」とあった。ちなみに、「カビ(真菌)」も調べてみたら、「腐った物に寄生するする下等な菌類」とあった。


 国語辞典のレベルでは、それぞれの用語に微妙なズレや重複がみられ、頭の中が少しばかり混乱してきた。しかし、問題のウイルスは、細菌やばい菌あるいはバクテリアなどとは別物であることだけは理解できた。さらに調べてみると、この世界の生き物は、大きく三つのグループに分けられることが分かった。小さい方から並べると、ウイルスたち、細菌の仲間、そしてカビの類の順である。


 そこで、今回のテーマであるウイルスだけ取り出して、もう少し掘り下げてみることにした。ウイルスは、細菌の50分の1程度の大きさで、人間は電子顕微鏡でしか見ることができない。自分の細胞を持たないので、ほかの生きた細胞に入りこんで生活し、その中で増殖を繰り返す。やがて細胞が破裂してウイルスたちは周りの他の細胞に入りこむ。なんだかヤドカリみたいでもある。しかし、ヤドカリは空屋になった巻き貝の殻を借りるだけで、生きている貝の体内に入りこみ家主を殺してそこを乗っ取るような悪いやつではない。


 このように、ウイルス類は人間にとっては、ただただ悪いだけの敵でしかない。細菌やカビのように、その半分は味方もいるというような甘い存在ではないのだ。インフルエンザウイルスのように、そのタイプによってはすでにワクチンも治療薬も開発されているが、新型コロナウイルスに至ってはまったく無防備な状態である。もちろん、関係者の努力によって予防薬であるワクチンや、治療薬も次々と開発されつつある。しかし、臨床試験まで含めると何十ヵ月あるいは何年という時間が必要である。


 当面は、悪徳ヤドカリには近寄らないことだけが唯一最大の防衛策のようだ。
                      (2020年5月13日 藤原吉弘)