合掌造りの里

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[エッセイ 224](新作)
合掌造りの里

 参考資料を探していたら、茅葺屋根の葺き替え作業をしている写真を見つけた。その人数の多さから、まるでハエが食べ物に群がっているように見えた。なんでも、200人近い人が急勾配の大きな屋根に取りついているのだという。

 東海北陸自動車道の、11キロもある長いトンネルを抜けると、すぐ先に世界遺産白川郷がある。東海と北陸を結ぶ幹線沿いにありながら、時間が止まったような生活を維持できたのは、やはりその地理的な条件によるものだろう。

 山がヒダのように折り重なったその一番奥に、南北に小さな盆地が開けている。耕地はほんの一握りしかなく、冬は深い雪に閉ざされてしまう。産業といえば、林業と養蚕くらいしか思い当たらない。人々は、「結(ゆい)」という助け合いの制度によって、この厳しい環境を生き抜いてきたのだという。

 合掌造りの大きな民家は、その自然環境と生活の知恵から生み出されたものだそうだ。住宅の本体にあたる一階部分は、専門の大工によって大きな柱でがっしりと造られている。

 一方、上の切妻屋根の部分は、「結」の制度によって村人たちの手にゆだねられる。断面はほぼ正三角形、合掌桁、コマジリ、あるいはネソといった伝統技術を駆使し、あまり費用をかけずに柔構造に造りあげられる。三角形の外側は茅で葺かれ、その内側の大きな空間は何層にも仕切って養蚕に利用される。

 この合掌造りが集中する荻町地区では、屋根の面はすべて東と西を向いている。これは、切妻屋根の両側にまんべんなく陽が当たるようにするためだという。さらには、地形の関係から風は南北に吹き抜けることが多いので、建物の風に当たる部分をなるべく小さくするための工夫だそうだ。そして、屋根の勾配が急なのは、雪下ろし作業を軽減するためのアイディアだという。

 茅葺屋根は、30年から40年に一度葺き替えられる。もちろん、前出の写真のように村人総出で作業にあたるわけだが、すべてを葺き替えるのに2日はかかるそうだ。

 茅葺屋根は夏涼しく冬温かいというが、その最大の弱点は火に弱いことだ。村では、1日に4回「火の番廻り」が行われるという。さらには、放水銃のついた消火栓が50基以上も設置され、その訓練も怠りないということだ。

 この地の厳しい自然環境が、それに適応する住環境を求めた。「結」はその制度と組織によって、それを合掌造りという形に表現した。村人たちは合掌造りの里をよりよく維持管理するため、「結」を一層強固なものにした。「結」はその活動をとおして、合掌造りをさらに洗練された住環境に進化させていった。合掌造りの里を散策しながら、自分なりにそんなことを考えていた。
【美濃、飛騨の旅◆曄複横娃娃固11月10日)