不幸中の幸い

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[エッセイ 33](既発表 5年前の作品)
不幸中の幸い

 「ガ・ガ・ガ・ガ・・・・」はっと我に返った。
 
 きのうの秋分の日はとりわけ快適な日和であった。今年は夏が涼しかった分、その反動なのか9月が猛暑となった。いささかうんざりしていたところ、彼岸の入りとともにやっと秋らしい気候になってきた。
 
 この夏もゴルフはお休みにしていたが、秋風とともに腕がむずむずしてきた。結局、秋分の日は今年も秋季シリーズの幕開けとなった。半袖ではちょっと涼しかったが、結構満足のいくプレーができた。久しぶりの運動のせいか、心地よい疲れも残っていた。

 帰りの道は普段の日曜日より空いていた。少し眠気をもようしてきたので、途中のサービスエリアでコーヒーブレイクし、思いっ切り背伸びもした。平塚市内を過ぎたあたりからまた眠気がおそってきた。6月下旬にたばこをやめて以来、いささか集中力に欠けるきらいはあるが、運転にはもちろん十分に気をつけている。それでも眠気はだんだん強くなってきた。新湘南バイパスは緊張のうちに通過した。

 藤沢バイパスに入り、自宅まではあと4~5キロ。もうちょっとというときが一番危ない。最後まで緊張を維持しなければ!1号線はさすがに車が多くスピードは半分に落ちた。

 「ガ・ガ・ガ・ガ・・・・」。はっと我に返った。車は中央分離帯を擦っていた。とうとうやってしまった。何年か前、禁煙中に高速道路で事故を起こしそうになったことがあるが、居眠り運転はそれ以来である。やはり、たばこの覚醒効果に依存する体質からは抜け出せていなかったようだ。

 自宅にたどり着き、どきどきする思いで車の右側を点検した。驚いたことに、バンパーはもとより、ボディーやドアにもなんの傷跡もない。僅かに、前輪のホイルカバーが内側にへこみ擦り傷がついているだけであった。そういえば、あの分離帯はコンクリート製で、その断面は下部が広く上部にいくほど狭くなっている。つまりタイヤが当たっても、ボディーにはすぐにはぶつからない構造になっている。助かった。

 そんなことより、もし中央分離帯がなかったら、対向車線にはみ出し大事故になっていたかもしれない。もしあの分離帯がガードレールでできていたら、車の右側は大きくえぐられていたはずである。もし車の流れがもっとスムースだったら、数倍の大きなダメージを受けていたかもしれない。もしハンドルが左に切れていたら、左側の車線を走っていた車にぶつかっていたかもしれない。「もし」を考えていたら、夜も眠れそうにない。

 まさに「不幸中の幸い」であった。
(2003年9月24日)