かき氷

[エッセイ 528]
かき氷

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 ここ数日、やっと秋らしい空気に代わってきた。やれやれといったところだが、今夏の暑さにはみな音を上げていたようだ。われら老人クラブが売りまくったかき氷も、皮肉にもそのおかげだったかもしれない。あの、白地に赤く「氷」と染め抜かれたのぼり旗が、誇らしげに揺らめいていたのが今では夢のようだ。


そのかき氷とは、氷を細かく削るか砕いてシロップ等をかけた氷菓のことをいう。シロップに、餡やコンデンスミルクを加えたものもある。かき氷は、夏の風物詩であり、夏の季語でもある。かき氷の屋台は、たこ焼きや焼きそば、あるいはポップコーンなどとともに、代表的な縁日ものの一つである。


 かき氷の歴史は意外に古い。なんと、平安時代にまとめられた清少納言の「枕草子」に「削り氷(けずりひ)」として登場する。曰く、「削り氷に甘蔓入れて新しき椀に入れたる」と。削った氷に甘いシロップをかけて、新しい金属製の器に入れたものは上品だ、ということだそうだ。ちなみに、氷は刃物で削っていたようで、シロップは甘茶蔓の茎の汁だったようだ。


 かき氷は夏が旬だが、昔は、暑いときに冷たい氷をどうやって手に入れたのだろう。江戸時代の記録によると、氷室で保存していた天然氷を、旧暦6月1日に加賀藩から江戸将軍家に飛脚便で献上したとある。明治に入ると、函館の五稜郭の外堀で作った氷を横浜で販売したという記録もあるそうだ。


明治も10年代半ばになると人工氷の生産技術が確立し、明治30年頃には機械による製氷が主流になったそうだ。一方、明治20年には、鋳物のフレームのついた手回しの氷削り機が登場している。そして、昭和初期にはそれが一般に普及し、人工氷を機械で削るのが当たり前になったそうだ。


 かき氷の作り方は、まず、器をよく冷やしておく。その上にかき氷を少し乗せ、シロップを少量かける。次に、かき氷を山盛りにしてさらにシロップをかける。最後にトッピング材をのせて完成となる。かき氷を入れる器は、ガラス製かスチール製、あるいは使い捨てにする発泡スチロールや紙の器である。


 氷にかけるシロップは、イチゴ、メロン、レモン、ブルーハワイ、コーラ、マンゴー、オレンジ、レインボー、カルピス、コーヒーなどなど。さらには、黒蜜、練乳、梅酒などあげれば切りがない。トッピングの材料も、伝統的な宇治金時をはじめ、スイーツ類ならほとんどのもがいける。


 かき氷のメニューは、地域の特産品をトッピングしたものや、地域や店のイメージを具現化したオリジナル品を幅広く生み出すことができる。かき氷は、削った氷の山からいろいろなメニューを創り出す、まさに宝の山である。


 考えれば、いくらでもできそうだし、涎もきりがないほど垂れてきそうだ。
                      (2019年9月16日 藤原吉弘)