小満

イメージ 1

イメージ 2

[エッセイ 517]
小満

 二十四節気では、5月21日とそれからの半月間を「小満」と呼ぶ。ものの本によると、「全てのものがしだいに成長して、天地に満ち始めるころ」と説明されている。二十四節気とは、季節の変化をわかりやすくするために、一年を24等分し、それぞれの特徴に相応しい名前を付けたものである。二十四節気は2月4日頃の「立春」から始まり、小満は8番目の節気に当たる。

 5月前半にはいろいろな行事があった。1日のメーデー、2日の八十八夜、3日の憲法記念日、4日のみどりの日、5日の子供の日端午の節句そして6日は立夏と続いた。ゴールデンウィークが終わってやれやれと思っていたら、12日の母の日では、赤いカーネーションが全国を飛び交った。小満とは、こんな全国規模の行事が一通り終わり、一息つくときである。

 この季節では、春の花が一通り終わり、締めとしてサツキが咲きはじめる。新しい葉っぱに衣替えしたばかりのその垣根は、一週間のうちにピンク一色に塗り替えられる。頭上の木々では、春先に芽を出した新しい葉っぱがその緑をいっそう濃くし、足下の明るいピンクと見事なコントラストを演出する。

 昔の人は、二十四節気よりさらに細かい区切りを設け、農作業の具体的な目安とした。一年を72等分した七十二候である。スタートは二十四節気と同じ立春の日である。ほぼ5日毎、二十四節気をさらに3つずつに等分した区切りに等しい。その5日ごとの一つ一つにもきわめて具体的な呼称が付けられている。

 小満の前半5日間は、七十二候では「蚕起食桑(蚕起きて桑を食う)」と呼び、蚕が桑の葉をさかんに食べ出すころを意味する。中間の5日間は「紅花栄(紅花栄う)」と呼び、紅の花が咲きほこるころをいう。そして、後半の5日間は「麦秋至(麦の秋が稔り始めるころ)」と呼ばれている。ここでいう秋とは、麦にとっての稔りの秋であり、本当の秋ではもちろんない。

 この小満と呼ばれる季節は、あらゆるものが満ちていく過程にあたる。満杯になる少し前の最盛期である。一日でいえば午前10時から11時頃にあたるだろうか。希望に満ちあふれた、一番勢いのあるときである。一つ前の「立夏」ではまだその雰囲気が出てこない。逆に、この時節が過ぎると、暑さが増し梅雨のはしりがやってくる。小満は、いわば一番脂の乗ったときといえよう。

 物事には必ず峠がある。それを過ぎたら必ず下りに向かう。物事は、登りのとき、それも6・7合目あたりが一番いい。小満直前の立夏ではいまひとつ物足りない。それかといって、一つ後の「芒種」では頂上に近くなり勢いが鈍ってくる。小満の今こそ、季節を謳歌すべきときである。こんないい季節を、ボーっと無為に過ごしていたのでは、チコチャンに叱られるのではなかろうか。
(2019年5月26日)