法隆寺

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[エッセイ 369]
法隆寺

 仏教に格別関心があるわけではない。古いお寺に特別の興味を持っているわけでもない。それでも、法隆寺だけはなんとか見ておきたい。これまで、奈良には何度も足を運んだことがあり、そのチャンスはいくらでもあった。しかし、いまだその念願は果たせず、願望として心の中で膨らむ一方だった。

 JR関西本線で「法隆寺」駅に着いたのは、午後1時を少し回ったところだった。駅前はいやに閑散としていた。斑鳩(いかるが)とよばれる辺りの田園風景を眺めながら、目星をつけた方向にひたすら歩いていった。前後には、外国人の女の子がただ一人同じ方向を目指しているだけだった。

 20分以上歩いただろうか、やっと念願の場所に辿りついた。拝観料は千円、残念ながら高齢者割引はなかった。その関所を入ると、目の前には五重塔が、右前方には金堂がそびえていた。その奥には大講堂が鎮座している。私たちは、矢印に導かれるまま聖霊院、大宝蔵院を経て、最後は夢殿に至った。

 想像以上に広い境内だった。そこに配置された建物はもとより、仏像や宝物はほとんどが国宝や重要文化財の類だった。最初、拝観料千円と聞いてちょっと驚いた。しかし、世界最古の木造建築である伽藍群と、仏教美術の集大成といわれるお宝の数々を見て回っているうちに心境は納得へと変っていった。

 この法隆寺は、いまから1400年前の紀元607年に推古天皇聖徳太子によって建立された。しかし、創建当時の建物は670年に火災で焼失したという。今の主だった建物は、7世紀後半から8世紀前半にかけて再建されたという説が有力らしい。再建されたといっても、1300年は経っている。現存する世界最古の木造建造物に間違いはない。

 寺域は18万7千平米、日比谷公園の1.16倍にあたる。境内は、メインである西院と、後に造られた夢殿を中心とする東院に大別される。国宝に指定されているものは、建物が18棟、美術工芸品が20点、重要文化財にいたっては“多数”としかいいようがない。1993年には、日本で初めて世界文化遺産に登録された。

 このお寺のご本尊は釈迦如来法隆寺聖徳宗の総本山である。以前、仏教の宗派について関心を持ち文献をあさったことがある。このときは、日本13宗派の中に聖徳宗法隆寺の名前を目にすることはできなかった。日本仏教興隆の祖である聖徳太子が創建したにしては不思議なことだと思っていたら、1950年に南都六宗の一つ法相宗から独立したばかりだそうだ。

 法隆寺というと、聖徳太子世界文化遺産群があまりにも有名である。その一方、本来の仏教の面でも指導的な立場にあることを忘れてはなるまい。
(2013年5月7日)

写真 上:金堂と五重塔
    下:夢殿