パリ・ローマの旅 懐顧版④ ”美術館めぐり”

[エッセイ 690]

パリ・ローマの旅 懐顧版④“美術館めぐり”

 

 この日は、美術館めぐりでもするかと考えていた。同じツアーの参加者で、その道に詳しいという人は、近代絵画はオルセー美術館がいいよとアドバイスしてくれた。それなら、まずはそこへ行ってみようということになった。その建物の前まで行ってみると、人は次々と来るが“Oh no”といったゼスチャーで帰っていった。掲示してあることはよくわからないが、どうやら定休日だったようだ。

 

 そこを諦めて、その足でセーヌ川対岸のルーブル美術館へと向かった。受付で日本語の案内書をもらい、お目当ての作品に丸印を付けてそれを重点的に見ることにした。かつて、岸惠子の案内によるこの美術館のシリーズ番組をNHKで見たことがある。そこでは、じっくり見ようとすると一週間はかかるといわれていた。最重点に見たいのは、もちろんミロのビーナスモナリザの絵である。

 

 中はとにかく広い。やっとの思いでビーナスの彫刻の前にたどり着いた。昔、日本で公開されたことがあるが、当時神戸に住んでいた家内は、名古屋まで行って長い行列の末にやっと見ることができたそうだ。ここでは、周りに人はいるがゆっくりと鑑賞することができた。次はモナリザの番だが、そこへたどり着くまでには、途中で何十、何百という多くの作品を鑑賞しなければならなかった。

 

 モナリザの絵は意外と小さかった。それでも、名画はやはり人を引きつけるものがある。これでやっと思いを遂げることができた。そういえば、もう何キロも歩いたようだ。とにかく、ホールの中央にあるベンチで少し休むことにした。・・いつのまにか、うっかり眠ってしまったらしい。気がつくと家内も隣でコックリコックリやっていた。オイ、オキロ!・・さいわい盗まれたものはなかった。

 

 美術館というと絵画ばかりが展示されているのを想像するが、ここは絵画と彫刻が半々くらいである。絵画は古い戦争もの、それも大型のものが多い。モナリザだけが例外に見えた。正直なところ、ここではなにが何だかよくわからなかった。せめて主な作品だけでも、そのいわれ、背景、価値くらいは調べて出かけるべきである。これでは、団体の後ろにくっついて来たのと同じことである。

 

 昼食後は、少し繁華街を歩いてみることにした。それもそうだが、とにかくオペラ座を見たかった。この旅の数年前、日比谷の日生劇場で「オペラ座の怪人」を見たせいだ。古いどっしりした建物、入り口付近は教会に見えなくもない。中に入って一幕だけでも見てみたいが、いま急にでは無理な相談のようである。

 

 オペラ座の左を抜けさらに進むと、通りを挟んでデパートが2軒あった。それらの店内を見て回ったり、商店街をブラブラしたりと、それなりにパリの繁華街も満喫することができた。これで、帰国後の土産話に困ることはないだろう。早めにホテルに帰って、翌日のローマへの出発に備えることにした。

                      (2024年8月12日 藤原吉弘)