リスキリング

[エッセイ 650]

リスキリング

 

 国会中継のテレビニュースで、首相答弁の中に「リスキング」だったか「リスキリング」だったかの単語が入っていた。聞き慣れない言葉なので、口の中で何度も反復してみた。“リスク”に関連する言葉なのか、あるいは“スキル”の派生語なのだろうか。そのうち、「リ・スキリング」ならありそうだなあという気がしてきた。しかし、いつの間にか忘れてそのままになってしまった。

 

 翌朝になって新聞を見ていたら、あの単語を紙面で見つけることができた。やはり「リスキリング」だった。そしてその後ろには「(学び直し)」とかっこ書きで補足されていた。別の場所の関連記事でも、その言葉が取り上げられたときには「リスキリング(学び直し)」とていねいに表示されていた。どうやら、あまり一般的な言葉ではないので、わざわざ日本語の注釈を付けたらしい。

 

 時間があったので、辞書を引いてみることにした。最初に、reskillingで引いてみた。「新コンサイス英和辞典」はもちろん「カタカナ語の辞典」にもなかった。そこで、3つに分けて意味を確認してみることにした。re=[接頭辞]「再び、元に、後へ、下へ、などの意味を表わす」。skill=[名詞]「巧妙、老練、熟練、上手、手際よさ、技術、業(わざ)」―名詞のみで動詞など他の使われ方はない。ing=[接尾辞]「動詞の原形に添えて現在分詞、動名詞をつくる」だった。

 

 今度は、新コンサイス和英辞典で、“学ぶ”に該当する英語にはどのようなものがあるか引いてみた。learn、study、そしてtake lessons(in) の三つが出てきた。ちなみにskillは見当たらない。今度は、英和辞典でそれぞれの日本語の意味を引いてみた。learn=[他動詞・自動詞]「(を)学ぶ、習う、教わる、学習する」。study=[名詞]「勉強、勉学、学習」[他動詞・自動詞]「(を)学ぶ、勉強する、(を)研究する、・・」だった。ここではlessonについは省略する。

 

 一息ついたところで、今度はインターネットで検索してみた。たくさんあった。リスキリングは、特定分野はもちろん、かなり広い範囲でごく普通に使われてはいたが、専門用語であることに違いはないようだ。新聞記事で取り上げるときも、リスキリングの後にわざわざ“(学び直し)”と説明をつけるように、まだそれほど一般的な用語ではないようだ。そんなことだったら、reskillingというのは棚上げし、最初から「学び直し」と表現すればいいのではなかろうか。

 

 それにしても、「学び直し」のことをいうのに、なぜlearnやstudyを使わないでskillを使ったのだろう。なぜ、skillという名詞に、本来馴染みにくいはずのingをくっつけたのだろう。“特定専門分野”に属する人たちの間に存在する○○意識といったようなものがそうさせたのだろうか。もしそうだったら、それは一旦棚上げし、幅広く一般常識もlearningしてもらいたいものだ。

                       (2023年2月2日 藤原吉弘)