卯年

[エッセイ 646]

卯年

 

 新しく迎えた2023年は、十二支では4番目の卯、十干・十二支では40番目の癸卯(みずのとう)に当たる。この卯という字は、十二支では4番目、動物では兎、方位では東、そして時刻では午前6時とその前後2時間を意味する。いまでは、卯はもっぱら卯年のキャラクターであるウサギのことを指す。

 

 その卯年は一体どんな年になるのだろう。そう問われても、専門家ではないので、結局キャラクターのウサギの特性から推測することになる。ウサギは跳躍が得意なので2023年は飛躍の年になる。子沢山なので、子孫繁栄の年になる。そして、成長が早いので経済は大きく成長するだろうといった具合である。

 

 このように、ウサギはいい意味で取り上げられることが多いが、かつてはたくさんの誤った認識ももたれていたようだ。例えば、ウサギは“1羽2羽”と数えるということだ。江戸時代には、町人たちは肉食を禁じられていたので、それを“鳥”ということにして食べたという。

 

 一方、あれは“鵜と鷺”だから“羽”と数えるのだとか、捕まえた兎は耳を束ねてぶら下げるので“1把2把”と数えるのだなどともいわれた。こうした頭数の数え方の他にも、“水を飲むと死ぬ”とか“寂しいと死ぬ”、あるいは“声を出さない”などとも信じられていた。しかし、いずれも誤解であることは、小学校などでそれを飼ったことのある人なら誰でも知っている。

 

 ウサギは、日本に古くからあるおとぎ話にしばしば登場する。「因幡の白兎」、「かちかち山」そして「兎と亀」など。それらによって、ウサギはいろいろなイメージをもたれることになった。ところが、イギリスの絵本作家ビアトリクス・ポターの絵本「ピーターラビットのお話」が紹介されると状況は大きく変わった。スカイブルーのチョッキを着て、人参を手にした主人公の野ウサギが登場するだけで、ウサギのイメージは“可愛い”の一色に変わったのだ。

 

 兎を引用した四字熟語で、2023年はどのような特性が注目されるか探ってみた。烏飛兎走(うひとそう):太陽には烏が住み、月には兎が住む・・歳月の慌ただしく過ぎ去るたとえ。鳶目兎耳(えんもくとじ):目ざとく、ささいな音も聞き逃さない・・そのような目と耳を持つ鋭い人。飛兎龍文(ひとりゅうぶん):よく走る、優れた才能を持っている・・才能のある優れた子供のこと。

 

 昨2022年のキャラクターはトラ、そして来る2024年のそれはタツ、動物としてはその世界を代表する恐ろしい生きものたちである。もし、トラからタツに直接バトンを渡すようなことになっていたら、一悶着も二悶着も起きていたかもしれない。その点、優しさが売り物のウサギが仲に立つだけで事は円滑に運ぶ。これからの世界情勢も、ぜひそうあってほしいものだ。

                       (2023年1月2日 藤原吉弘)