バンザイ

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f:id:yf-fujiwara:20211016135516j:plain[エッセイ 607]

バンザイ

 

 衆議院が解散した。これも与党の戦略の一つらしいが、岸田内閣が誕生した10月4日からわずか10日間しか経っていない。逆に、一般議員たちは任期を目一杯努めての退任である。議長が解散詔書を読み上げたとたん、両手を大きく上げて、一斉に「バンザイ」と繰り返し叫んでいた。なかには同調しない議員もいたが、時代錯誤も甚だしい異様な光景としか見えなかった。

 

 だいたいバンザイ(万歳)とは、おめでたいときにやるものではなかろうか。それが、これをもって議員が全員失職というときになんでバンザイなのだろう。まして、いまは大勢いるところでは大声を出さないことになっているはずである。どうみても、やけくその浅はかな行為にしか見えなかった。

 

 そこで、バンザイについてあらためて調べてみた。万歳は、もともと中国で使われていた「千秋万歳」の後半部分である。万歳は、一万年という皇帝の寿命を示す言葉で、本来皇帝に対するとき以外は使われなかった。日本では、1889年(明治22年)2月11日、日本帝国憲法発布の日、青山練兵場での臨時観兵式に向かう明治天皇の馬車に向かって万歳を三唱したのが始まりだそうだ。

 

 そんな雰囲気を引き継いでか、この言葉には戦争の悲惨なイメージが色濃く残っている。それでも、出征兵士を送り出すときには、まだ多少お祝い気分も残っていた。しかし、その後は死に直面するときに発せられる最後の言葉に変わった。神風特攻隊が敵艦に突撃するとき、歩兵が敵に向かってバンザイ突撃するとき、敵に追い詰められて集団自決するとき、さらにはバンザイ・クリフ(サイパン島の断崖絶壁)からの集団投身など暗くて悲しいイメージがつきまとう。

 

 ところで、バンザイと似たような語句は西洋にもあると聞き、いろいろ調べていたら“Viva La Vida”という言葉に行き当たった。スペイン語あるいはイタリア語で「美しき生命」という意味で、“生きていることバンザイ”というときにそう叫ぶそうだ。そしてなにかを称えるとき、”Viva la ○○”と、○○の部分に国名や人名などを入れてそう叫ぶようになったという。

 

 そういえば、3年前に発表された五木ひろしさんの歌も、その語句どおり「VIVA・LA・VIDA~生きてるっていいね!~」というタイトルがつけられていた。五木さんらしからぬ歌詞でありメロディであったが、当方も歌の狙いや意味合いもよく理解しないままカラオケで歌っていた記憶がある。

 

 それにしても、バンザイには右寄りのイメージが、そして悲しい記憶がつきまとう。しかし、よく考えてみると、その言葉は人生を応援する心からの叫びが音声となって表われたものといえよう。時と場合をよく見極めて、納得いくときには思い切って“バンザイ”と叫んで見るのも悪くないかもしれない。

                     (2021年10月16日 藤原吉弘)