ケイトウ

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f:id:yf-fujiwara:20211008104634j:plain[エッセイ 606]

ケイトウ

 

 夏から秋にかけて、色鮮やかな花が花壇を賑わしている。子供の頃から馴染んできたケイトウの花たちである。あの、ニワトリのトサカの形をした花はいかにも印象的である。最近は、トサカ状のものばかりでなく、球状になったものや、槍状に尖ったものなどいろいろな種類の花が現われてきている。色も、あの深い赤だけでなく、黄色や白など様々なものが見られるようになってきた。

 

 ケイトウは、ヒユ科ケイトウ属の1年草である。原産はインドや熱帯地方で、日本には中国を経由して奈良時代に入ってきたそうだ。茎頂がニワトリのトサカに似ていることからケイトウ(鶏頭)と呼ばれるようになった。これは、日本に限らず世界中でそう思われているらしく、英名はcook’s comb、中国名は鶏冠花と呼ばれている。学名はcelosia argentea、ギリシャ語の燃えるという意味合いのkeleosが語源で、あの鮮やかな赤色がもとになっているそうだ。

 

 ケイトウは、夏から秋にかけて花をつける。炎天下でもよく咲く。花持ちはいいが移植を嫌うという。主な種類は、トサカ系(鶏冠鶏頭)-花穂がトサカ状、クルメ系(久留米鶏頭)-花穂が球状、キルドシ系(槍鶏頭)-花穂が槍状、そしてプルモサ系(房鶏頭)-花穂が房状のものなどである。花穂は小さい花の集合体で、花被片5、雄芯5、花柱1の割合で構成されているそうだ。

 

 ここで、ケイトウにまつわる中国の民話を一つ取り上げてみよう。「ある山里の外れに、母親と息子が住んでいました。二人は雄鶏を飼っていました。ある日、息子が山に薪をとりに行った帰りに、道ばたで美しい娘が泣いているのを見かけました。息子は、その娘を保護するために家に連れて帰りました。ところが、雄鶏が激しく鳴いてその娘を追い返そうとしました。

 

 翌朝、息子はその娘を村へ送り届けることにしました。ところが、その娘は途中で鬼女に変身し、口から毒の炎を吐いて息子に襲いかかってきました。娘の正体は、山奥に棲む大ムカデの精だったのです。その正体を見抜き、二人の後をそっとつけてきた雄鶏は、その鬼女に立ち向かっていきました。雄鶏は死闘の末、大ムカデの精を倒しましたが、自身も力尽きて倒れてしまいました。

 

 息子は、自分を守って死んだ雄鶏に、感謝を込めて庭に丁重に葬ってやりました。やがて、そこから草の芽が出て、鶏の鶏冠によく似た花を咲かせました。近隣の人々は、主人のために勇敢に闘った雄鶏の生まれ変わりに違いないと思い、その花を鶏冠花と呼ぶようになりました」。

 

 花言葉は、おしゃれ、気取り屋、風変わり、個性、色あせぬ恋、そして華燭などである。ニワトリ、とくに雄鶏には普段ほとんど接する機会がなくなってしまったが、せめてケイトウくらいはしっかりと愛でてやりたいものである。

                         (2021年10月8日 藤原吉弘)