台風一過、彼岸花と中秋の名月

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f:id:yf-fujiwara:20210921154315j:plain[エッセイ 604]

台風一過、彼岸花中秋の名月

 

 台風の影響で、日曜日の昼過ぎまでずっと雨にたたられていた。その雨も上がり、曇天は抜けるような青空に変わった。しかし、間もなくすると深い闇へと変わっていった。ところが、東の空が急に明るさを帯び、やや細面の月がおもむろに顔を出してきた。もうすぐ中秋の名月となる十三夜の月である。しかし、2日後も必ず晴れるとは限らない。ためらうことなくカメラを持ちだしてきた。

 

 昨日の敬老の日は、まさに日本晴れとなった。なには差し置いても、彼岸花を見にいくべきだと考えた。しかし、小出川に着いて少々がっかりした。花は満開だが、その様子はすでに盛りを過ぎているようにしか見えなかった。花の先端部分が、一様に色あせたていたのだ。どうやら、台風の強風で傷んでしまったようだ。風下部分が、まだ色が鮮やかだったことがそれを証明しているようだ。

 

 ただ、前夜の続きで、空は見事に晴れ上がっていた。そこから眺める富士山も、裾野まですっきりと見通すことができた。おまけに、中腹には雲がたなびき、あたかも一幅の絵画を思わせる風情があった。ただ一つ残念だったのは、頂上には雪がなく、ややかすみがかったシルエットだけが浮かび上がっていた。今年の富士山は、彼岸花とともに色の点で多少物足りなさが残ったといえよう。

 

 この日も、慌ただしく過ごしているうちにいつの間にか夕暮れを迎えていた。やがて、東の空には月が出てきた。前夜に続いて、空は澄み渡り、それを遮るものはなにもなかった。富士山と同じように、雲がちょっとだけでもかかっている方が絵になるかとは思ったが、そのようなものはどこにも見当たらなかった。ただ、限りない深い闇の中に、くっきりと浮かび上がっているだけだった。

 

 かくして、十三夜と十四夜の名月を、二晩続けてカメラに収めたわけだが、これはあくまでも十五夜中秋の名月の予備として撮影したものである。事実、お天気は全国的に下り坂に向かっており、名月を楽しむことのできる確率は50%以下になると伝えられている。もし、お天気がだめな方に傾いたら、また一年間待たなければならないことになる。

 

 ここで、あらためて暦をつぶさに点検してみた。中秋の日に、月が完全な円になるのは21日の午前8時55分だそうだ。つまり、われわれが月を見ることのできる時間になると、満月を半日ばかり過ぎた月齢15.5日の姿ということになる。一方、昨夜眺めた月は満月直前の14.5 歳となる。かつて、十六夜の月も悪くないと書いたが、やはり十四夜の月の方が見応えがあるといえよう。

 

 たいていの場合、物事は頂点を過ぎたときよりその直前の方が魅力的である。月も、花も、人間もまたしかりである。そんな日が、頂点を過ぎた人をいたわる敬老の日に当たっていたとは、なんとも皮肉なことといわざるをえまい。

                      (2021年9月21日 藤原吉弘)

追伸:

 夕方から曇ってきて、中秋の名月を見るのはやはり無理かと思っていたら、偶然にも雲の間から顔を出した。なんとか写真にも撮れたので、十五.五夜の名月の写真を追加で掲載する。

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