カマキリ

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[エッセイ 572]

カマキリ

 

 つい4~5日前の、ぽかぽかと暖かい日のことだった。庭に出て鉢植えの観葉植物を眺めていたら、その枝にカマキリがしがみついていた。上から見ると薄い褐色をしており、横から見ると腹の部分は緑色をしていた。かなり大きい。物差しで測ってみると、胴体部分は約9センチあった。図鑑などから推測して、どうやら「オオカマキリ」という種類のメスらしいとわかった。

 

 カマキリは、子供のころから馴染みの昆虫だった。しかし、セミやトンボと比べると、ずっと遠い存在だった。夏休みの研究テーマにしてみようとか、たくさんの種類を集めて標本を作ってみようなどという気にはなれなかった。あの三角頭とスリムな体型、それに両鎌を持ち上げて構えたときの姿に親近感が持てなかったからだ。加えて、共食いという奇妙な習性がどうしても許せなかった。

 

 長じて、まだ娯楽が少なかったころ、「五月みどりのかまきり夫人の告白」という映画が登場した。映画館にはよく足を運んだし、ピンクがかったものも嫌いではなかった。しかし、さすがにこの看板には嫌悪感さえ覚えて近寄ることはなかった。ただ、この映画の話題から、カマキリはただの共食いではなく、交尾中にメスがオスを食い殺すのだということを知った。

 

 カマキリという昆虫は、春4月ごろになると、木の枝に産み付けられた卵嚢の中で孵化し、200匹くらいが幼虫として外にはい出してくる。幼虫は、6~7回の脱皮を繰り返して夏7月ごろに成虫になる。カマキリはオスよりメスの方が大きい。一番大きいオオカマキリだと、メスは75~95ミリくらいで体型も太め、オスは70~90ミリくらいで細身のようだ。

 

 カマキリは、漢字では鎌切と書く。一説によると、「鎌を持つキリギリス」がその名前の由来といわれている。6本ある足のうち、鎌のような形をした前足2本を縦横に使って餌を仕留める。敵と戦うときももちろんそれが最大の武器となる。敵と対峙して両前足を構えたときの姿は、空手やカンフーを連想させる。その格好から、日本では「拝み虫」あるいは「斧虫」とも呼ばれている。

 

 餌はもっぱら肉食で、生きたものしか食べない。交尾中のオスを食べることもしばしばで、オスもそれを嬉々?として受け入れることがあるという。その場合、オスが大きな栄養源となって立派な子孫を数多く残すことに繋がるそうだ。ただ、自尊心の強いオスは、交尾が終わるやいなヒラリと身をかわし、新たなメスを求めて旅を続けるそうだ。「五月みどりの・・」の主人公や「エンプーサ」というギリシャ神話に登場する怪物は、まさに男を食い物にする女のようだ。

 

 わが家の庭にいたカマキリのメスは、翌日もその近くで日向ぼっこ楽しんでいた。しかし、翌々日あたりから姿が見えなくなってしまった。そして昨日、ふと庭の隅を見ると、彼女の亡骸が静かに横たわっていた。

                     (2020年11月21日 藤原吉弘)